2014年9月12日金曜日

秋葉原の女神

毎日フラフラしている。
モラトリアムを言い訳にして、特にあてもなく毎日フラフラしている。
森鴎外の「高瀬舟」という話を知っているだろうか?
弟を殺めて流刑にされた男があまりに満足気だったので、同伴していた同心が己を振り返るシーンがこの話にあった。
庄 兵衛はただ漠然と、人の一生というような事を思ってみた。人は身に病があると、この病がなかったらと思う。その日その日の食がないと、食ってゆかれたらと 思う。万一の時に備えるたくわえがないと、少しでもたくわえがあったらと思う。たくわえがあっても、またそのたくわえがもっと多かったらと思う。かくのご とくに先から先へと考えてみれば、人はどこまで行って踏み止まることができるものやらわからない。それを今目の前で踏み止まって見せてくれるのがこの喜助 だと、庄兵衛は気がついた。
ものすごく端折ったが、短い話なのでぜひ読んでもらいたい。
まあつまり、「人間の欲には果てがないよね」って話だ。
まったくもってその通りだ。
毎日フラフラ遊び惚けているというのに、その先々で勝手に見なくてもよいものを見て、勝手に悩んでいる。
傍からみたら馬鹿らしい限りだと思う。
しかし当の本人にとってみれば直面する問題はそれしかないわけで、悩まずにいられないのだ。
ただ俺の場合、くだらない事に悩んでいる時間が長すぎるのだ。無駄に悩むくせに結論は出さないので、いつまでも同じことを考えている。
なので、少しずつ考えた事をここに吐きだしていこうと思う。

本題に入る。
俺はメイド喫茶に行く。そこそこ行く。
「フラフラしている」時間の2割くらいはメイド喫茶に使っているのではないか。
メイド喫茶クラスタ(界隈)と呼ばれる人たちほど通っているわけではないが、普通の人に話したら「何がそんなに面白いの?」と言われるくらいには行っている。
まあ秋葉原なので、いろんな人がいる。いろんな店がある。
ほぼキャバクラと変わらないような営業形態の店もあれば、喫茶店の制服がただメイドなだけ、みたいな店もある。
メイド喫茶オタクキャバクラ」みたいな話も、メイド喫茶の定義によっては、あながち間違いではないと思える(こういう書き方をすると、どこかから何かが飛んできそうで怖いのだけれど)。
まあ・・・その辺の話をすると俺は先輩方に絶対かなわないのでやめておく。
ある日のことだ。俺は使わない携帯電話を売ったついでにメイド喫茶に寄った。
オタクキャバクラ」とまでは言わないが、ある程度、客とメイドの会話があり、ウリのひとつ(になっていると思う)である店へ行った。
一人でメイドとベラベラ喋る気もなかったのでケーキを食べながらボーっとしていたのだが、向かいの客がやたらと喋っているのが目に付いた。

客「○○ちゃん大学生だっけ?いま何年生?」
メイド「そうですね~ぼちぼち将来のことも考えないと・・・」
客「○○ちゃぁ~ん、大変だよぉ?学生のうちに俺みたいに人脈作っておかないとぉ~」
メイド「○○さん凄いですよね~そんなに色々人脈があって」

明らかにメイドの顔が引きつっている。表情こそ笑顔ではあるが、怒りを纏った色気のようなものが細くなった眼から漏れているのがわかる。メイドの目がキョロキョロしている。仕事を見つけて、その場を離れる口実を探しているのだ。しかし客の方はそれに気付く様子もなく、ひたすら話を続けている。
それは当然だ。“メイド”という設定があるにも関わらずそれを無視して現実を割り込ませた上に、相手の事を全く考えない自慢話。
そうでなくたって、客と従業員という関係がある所で言う話ではない。
もし本当に男が彼女のことを考えていて、彼にその資格があるのなら、店外で話す機会があるだろう。・・・この話は脱線しそうだからやめよう。
とりあえず、そういうのはキャバクラで指名してからやれよ、と思った。いや、そういう配慮ができないからメイド喫茶にいるんだろうけどさ・・・
本当はそれだってよくないのだけれど、金で相手の時間を買っているのだから、まだ許されるだろうよ。
まあ客の話はこの辺にしておこう。
キャバクラへ行けよ、と思った次に俺は、素直に「この女の人すごいな・・・」と思ったのだ。
だってそうでしょ。仕事とは言えこんなクソみたいな男の話に付き合って、(その男がわかる範囲では)表情にも出さない。凄いよ本当に。だからこそクソみたいな男が寄ってきてしまうのかもしれないが。
俺はこのメイドの優しさに、女神を見た。女を意識できる若い恋人のようで、それでいて望まない態度は取らない母親のような、そんな女性。
恐らくこの客が何らかの衝撃を受けて自らを振り返らない限り、彼女は彼にとって女神であり続けるだろう。
俺はこういう客が陰で色々と言われている事を知っている。恐らく、仕事仲間の間でボロックソに言われているだろう。彼氏に愚痴っているかもしれない。
しかし、彼が想像力を持たない限り、その事実はまったく意味をもたない。
死ぬまでそれに気付かなければ、それはそれですごく幸せな事かもしれない。
そういう事を考えると、なんだか恐ろしくなる。
「俺もまた『女神』を作り出していないか」という意味もあるが、もっと漠然とした感じで恐ろしいのだ。うまく言葉にできない。
答えを出さないといけない気がする。しかし今はできそうにない。
とりあえず、今日はここまでにしておこう。

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